淑やかな悪夢
著者名:シンシア・アスキス(著)
倉阪鬼一郎(編訳)
出版社:東京創元社
出版年:2000.10
ISBN :9784488013134
夏の休暇を、“わたし”は田舎の孤立した家で過ごすことになった。
そこで、“わたし”は、毎日厳しく管理された療養生活を送るのだ。
だが、その大きな部屋が“わたし”は好きではなかった。
ところどころ剥がれている、くすんだ、不潔な感じの黄色い壁紙。その奇妙で曖昧な模様も、色も、“わたし”を苛立たせる。
暫く暮らしても、壁紙だけは好きになれない。
壁紙には、表情がある。とても豊かな表情が。それは、模様として繰り返し現れる。
折れた首みたいにだらっと垂れて、球根のような眼が逆さまのまま、こっちを眺めているように見える模様だ。
この壁紙のことが、頭から離れない。
やがて、そこに隠された形が。次第に上体を折り曲げ、模様の向こうを這い回る女のように見えてくる。
“わたし”は、この壁紙をもっと知りたい。
そして、誰にも知られたくはない。
やがて、黄色い染みが服に付く。
匂いもする。髪の中までも潜り込む、黄色い匂い。
壁紙の床に近い辺りに、部屋をぐるりと回る筋がある。何度もこすったような筋が。どうして付いたのかは分からない。
壁紙の模様の向こうには、時には沢山の女たちがいるような気がする。
模様は彼女たちを絞め殺し、仰向けにする。
彼女たちは白眼をむく。
やがて、昼間、女が壁紙から外に出ていることに気付く。
見たのだ。
這い回っている姿を。
彼女を非難したりはしない。
わたしは昼間這う時はいつも鍵をかけることにしている。
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